植村直己と犬たちの心の交流を描く冒険童話 北極圏横断の旅を支えた犬たちの物語 こうしてゴールできたのは、ぼくの力ではなく、 おまえたちのおかげなんだよ あのマッキンリーから20年。
今なお語り継がれる冒険家・植村直己。
その偉大な冒険の一つ「北極圏単独犬ゾリ12000キロ横断」を童話化。
旅の最初は植村さんも、主人としてすきを見せないように、犬たちに対して 厳しく振るまい、家畜のようにソリをひかせていました。
しかし、 襲いかかってくる大自然の困難を犬たちとくぐり抜けていくうちに、 「家畜」として扱っていた犬たちが、「家族」のように思えてきたのです。
小学校中学年以上向き 関 朝之 作 2005.04.23 発行 ISBN 4-89295-512-4 C8093 A5上製・160頁 はじめに —— 北海道帯広市の「おびひろ動物園」は、町の中心から少しはなれた小高い丘の上にあります。
けして大きな動物園ではありませんが、地域の人たちに愛され続けています。
そんな「おびひろ動物園」の中に、「氷雪の家」と呼ばれる記念館が、ひっそりとたっています。
この半円球をした不思議な空間に入ると、ソリをひっぱる五頭のエスキモー犬のはく製と、犬ゾリを操る男の人の人形が目に飛び込んできます。
犬ゾリをひっぱる先頭のメス犬の名前は「アンナ」といって、この物語の主人公です。
そして、ソリを操っている男の人は、冒険家・植村直己さんです。
植村さんは、氷と雪に閉ざされた未知の世界に強く心ひかれ、たったひとりでグリーンランドをスタートして、カナダ北極圏を通ってアメリカ・アラスカ州までに至る「北極圏一万二千キロ」を犬ゾリで走りぬけました。
植村さんは、その旅の命綱ともいえるエスキモー犬十二頭を、出発地点より少し南の町で買い求めました。
アンナは、その中の一頭で、旅のスタートからゴールまで、植村さんと行動をともにした、ドッグチームのリーダー犬でした。
現地で暮らすイヌイットおよびエスキモーの人たちにとって、アンナのようにソリをひくエスキモー犬のほとんどは、労働をさせるための使役犬であり、たいせつにかわいがるペットではありません。
中にはペットのように飼っていた人がいたのかもしれませんが、ほとんどの人が使役犬として働かせていました。
だから、植村さんは、犬たちの主人として、すきを見せないように厳しくふるまい、家畜のようにソリをひかせていました。
その一方、犬たちも植村さんに心を開かず、旅の途中で逃げ出してしまったのは、一頭や二頭ではありませんでした。
このような具合ですから、旅の間には犬のトラブルがたくさんおこりました。
犬に逃げられたり、死なれたり……。
そのたびに植村さんは、途中で立ち寄った村で新しい犬を買い、ドッグチームを作り直していきました。
ところが、襲いかかる大自然の困難を犬たちと切りぬけていくうちに、植村さんと犬たちは、少しずつ心が通じ合ってきます。
ゴールが近づくにつれて、植村さんには「家畜」として扱っていた犬たちが「家族」のように思えてきたのです。
つまり、植村さんは、イヌイットやエスキモーの人たちのように心の底から犬を道具のようには扱えなかったのです。
そんな植村さんと、リーダー犬アンナたちには、どのような物語があったのでしょうか……。
目 次 —— はじめに 第一章 駆けぬけた「厳寒の北極圏」 灰色のメス犬 通い合わない「犬との心」 おまえがリーダーだ! 帰ってきたアンナ 海水からの脱出 アンナ、お母さんになる かなわなかった約束 もう一度、走ってくれ! シロクマに襲われる!? ひとりじゃなかった「単独一万二千キロ」 第二章 生きぬいた「北の大地・北海道」 アンナ、北海道へ 次の夢 アンナと新米飼育員 帯広に広がる犬ゾリレース もう一度アンナに会いに来て! さよなら、落ちこぼれ犬イグルー 植村さんの魂は、ここにある アンナたちと、いつまでも おわりに